お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “桜の下で”
 


満開とはよく言ったもので、
これ以上はなくの満々と、
枝が見えないほどたわわについた花の厚みは、
まるで上臈の艶姿を思わせるほどに華やかな、
なのに凛としてもいての、神聖で荘厳な存在感を醸しており。
風に揺られて梢ごとゆらゆらと振れる様の、
何と優雅な佇まいであることか。
そんな動きが“おいでおいで”に見えるのか、
そよ風の中に小さな鼻先を立てるようにして、
懸命に頭上を見上げる小さな存在があり、

 「にゃあvv」
 「そうだね、綺麗だよねぇ。」

この時期だけ特に意識して通ることにしている、
ちょっぴりほど遠回りになる散歩道。
商店街の向こう、大川の土手までを誘なうように
桜並木が連なる静かな小道があって。
目的は同じか、この時期だけは人通りも常より増えるが、
それでも住宅街の中だけに、
慎みのある人たちが静かに行き交うだけの通りを、
いつものお供たちとともに回り道するのが日課となる七郎次で。
此処までは提げて来たそれ、大きめの籐のバスケットを、
この小道に入ると両腕掛かりで懐ろへ抱え、
ぱかりと上蓋を開けてやり、
中に収まっていた仔猫たちにも満開の桜を堪能させる。
そして…そんな彼の姿もまた、
この時期の風物詩になっていることまでは、
さすがに御存知ではないようだったが。(苦笑)

 「みゃうみゃんvv」
 「にゅあ・みゅvv」

キャラメル色の綿飴みたいな ぽわぽわした毛並みの仔と、
ビロウドもかくやと見紛う、つややかな見事な漆黒の仔と。
どちらもまだまだ幼くて頭でっかちな、
それはそれは小さな仔猫さんたちを、
大人しい良い子だったご褒美ということか、
見ごたえのある桜の下、
のんびりした歩調になって一緒に堪能なさる
そちらも麗しい、金髪白皙の美丈夫様で。
それは莞爾な笑み浮かべ、
仔猫らを幼子相手のようにあやしつつのお散歩をなさる姿は、
何とも言えず清かで端正なものだから、
彼自身が春の使者のようだと言われているほど。

 「ステキよねぇ。//////」
 「うんうんvv//////」
 「モデルさんかなぁ。」
 「つか、外人さんじゃあないよねぇ。」
 「そうだよね。そこまでバタ臭いお顔じゃないし。」
 「でも、あのスタイルのよさはどうよvv」
 「声だって甘くていい響きだし。//////」

あくまでも猫へとだが、にこりと微笑おうものならば、
きゃ〜〜〜っvvという声なき声が
あちこちから上がるという注目のされようだが、

 《 気づいちゃおられんから罪なことよの。》
 《 ? クロたん?》

ちゅみき(積み木)がどうかした?と、
幼いお声で相棒のメインクーンさんが訊き返すのへ。
ああ・ううん、何でもないないと、
幼い素振りでかぶりを振ったが、

 《 ……?》

やや慌てもて そんな応対を向けた当の相手が、だが、
何を見とがめてか、その視線を随分と彼方へ逸らしておいでで。

 “…おや。”

この姿でいる折も、警戒用の感度は高めにしておいでか、
陽の当たっているところは弾けるように目映い桜の梢を見やると、
幼いお顔に見合わぬような、奥行き深い眼差しをしているようで。

 《 キュウゾウ?》

幼いふりもせぬままに、こそりと声を掛けてみれば、
やわらかで細い質の前髪の陰、紅色の双眸をぱちりと瞬かせ、

 《 ついて来るようなら、容赦せぬ。》

そんな呟きをこぼした彼でもあって。
おやと、こちらは黒耀石のようなぬばたまの眸を見開いて、
視線を重ねるようにし、同じところを透かし見やれば、

  とある梢で、陽炎のような澱が ゆらゆら揺蕩う(たゆとう)

春の温みがもたらしたそれだと、何とすれば見えなくもないが。
仔猫ではなく、それは幼い坊やとしての横顔に、
きりりと冴えて鋭利なる、
大妖狩り殿の白面が重なって見えたからには、

 “…七郎次殿に食いつく恐れのある輩か。”

人に仇なす“陰体”にもいろいろ。
土地の地脈が濃密に凝り固まって何物かが生じる場合もあれば、
人の怨嗟が いびつなまま醜く歪んだ末に変化したもの、
最近 知己となった某高校生の周辺には、
何と別の世界からはみ出して来る者まであるというから、
一頃ほど太々しい気概を持てなくなったイマドキの人らには、
ますますと取り憑かれやすい傾向が強まってもしょうがないのかもで。

 “他所のお人の話はさておき。”

冷たい言いようなようだが、
自分やこの、実は凄腕の妖異狩り殿の使命は、
見上げる空を縁取って咲きそろう、
この国の“花王”よりも甘い美貌のこちらの君を、
その身を楯にしてでも守ることゆえ。

 「そうだ、お団子買って帰ろうか?」

銀嶺庵の桜餅、
勘兵衛様は道明寺のがお好きだから、
2種類とも買ってこうねと。
他でもないご自身こそ 甘いのがお好きな七郎次殿、
主人にかこつける可愛げを見せる彼なのへ、
この際は同調しての“みゃあvv”と、声を揃えた仔猫二人。
花宵のにじり寄るのだろ、夜陰に備え、
甘い甘い春の風に 潤んだ双眸そろって細めた昼下がり…。





  〜Fine〜  14.04.03.


  *今年の桜も前倒しで、西も東ももう満開だそうですね。
   入学式までは何とか花が残ればいいのですが…。
   そして、こちらさんは
   相変わらずに仲良しな、おっ母様と仔猫'ズでしてvv
   陽を弾いて咲き誇る緋白の桜たちの中、
   こんな美人さんが、しかも愛らしい仔猫を連れて現れたら、
   そりゃあ注目だって浴びるってもんで…。
   勘兵衛様、
   こんな罪な人を放し飼いしちゃあいけません。(おいおい)
   それと、あのその、
   キュウゾウちゃんがさりげない暗示の咒をまとっているので、
   何年経っても育たぬ仔猫だってことへも
   不審は抱かれてないということで。

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